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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)139号 判決

事実及び理由

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1  その1の主張について

原告は、審決が、本願考案と第一引用例のものとの対比について、「互錠素子はそれぞれ複数の縫目により支持用テープに固定される」構成である点において両者は同一であると判断したのは誤りであると主張する。

第一引用例のものにおける、互錠素子を支持テープに固定する構成が、原告主張のように、「糸をより合せたコードを素子の上部にのせたうえで、まずコードと素子とを縫糸をもつて縫着し、次いでそのコードのみをさらにテープに縫糸をもつて縫着し、素子を間接的にテープに固定している」ものであることは、被告において明らかに争わないところである。

他方、この点に関する本願考案の要旨が、「前記素子は、それぞれ複数の縫目により支持用テープに固定される」構成のものであることは当事者間に争いがなく、この点について、右考案の要旨にはそれ以外の限定は存しないから、その文言上、第一引用例のものの右間接的な固定手段も、本願考案の構成要件に該当するものと解することができる。

原告は、本願考案の右要旨は、「前記素子は、通常の刺し子縫い、ジグザグ縫い、あるいはダブルチエーン縫いにより、附加的な部分を用いることなく、複数の縫目によつて直接固定される」という意味に限定的に解すべきであるとして、その根拠に、本願考案の説明書第四頁第一四行~第一八行、第六頁第一三行~第一八行及び第6図の記載を指摘する。

そこで、右説明書の記載と図面とを検討するに、成立に争いのない甲第八号証によれば、原告指摘のような記載と図面の存することが認められるけれども、他方、当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、その互錠素子は、それ自体の構成からみて、支持用テープに固定するには、右説明書の記載と図面のような手段によらず、第一引用例のもののように、素子に縫着したコードを支持用テープに縫着するという間接的手段によつても、フアスナとして構成することができ、その作用効果を十分に奏しうることが容易に理解できるから、この点を本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載)に併せ考えれば、右説明書の記載と図面とは、本願考案の互錠素子を支持用テープに固定する一つの態様を例示したものないし一実施例にすぎないと解するのが相当である。

また、原告は、その主張のように解すべき根拠として、本願考案においては、素子と素子の間が針で縫うのに十分な間隔を有し、素子と支持用テープとを直接ミシンで縫つて固定することが可能になつたことを指摘しているが、本願考案の「脚部分と頭部分とが素子の長手方向を横切る共通面内に延びる」構成において、右共通面が長手方向に対して垂直もしくはほぼ垂直であることは本願考案の構成要件として規定されていないところである。そうすれば、その共通面がテープ面に対して傾斜している場合には、素子の寸法など各様の態様を併せ考えるとき、原告がいうように素子と素子の間がミシンで直接縫うのに十分な間隙を有するとは限らず、これを有しない場合もありうることが明らかであるから、このことをもつて、本願考案の要旨を原告主張のように限定して解釈することはできない。

つまるところ、本願考案の要旨を原告主張のように解すべき理由はなく、本願考案と第一引用例のものとは「互錠素子がそれぞれ複数の縫目により支持用テープに固定される」との構成において同一というべきものであるから、審決の判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。

2  その2の主張について

(1)  原告は、審決が、本願考案と第二引用例のものとの対比について、「長手方向に連接する各互錠素子が隣接する互錠素子と共通の第一連結部分、第一脚部分、頭部分、第二脚部分、第二連結部分の順に構成されている」点において同一であると判断したのは誤りであると主張する。(イ)原告の右主張の根拠の一は、第二引用例には、本願考案にいう「頭部分」が存在しないから、両者は同一ではない、というのである。

当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案の互錠素子は、「断面円形状の材料で作られ」ており、「脚部分と頭部分とは、素子の長手方向を横切る共通面内に延び」ており、「脚部分は、前記共通面内における前記頭部分を横切る線に関して対称的」であるものである。そして、左右の互錠素子が、コイル状の巻き方向を除き、同一の構成であることは当事者間に争いがない。

そうすれば、右のような構成においては、フアスナとして、左右の互錠素子の噛合閉鎖を確実にし、みだりに開離しないようにするには、頭部分は、双互に引掛るような平坦部又は膨出部等を有する形状であることを要するものと考えられ、したがつて、本願考案の互錠素子の頭部分は右のような形状のものと解するのが相当である。(もつとも、噛合閉鎖、開離防止を確実にするという点からは、原告主張のように、平坦部を有する形状に限るとか、スライドフアスナの面に垂直あるいはほとんど垂直でなければならない、とまで解すべき必然的理由はない。)

この点について、被告は、頭部分の形状が右のようなものでなくても、本願考案の互錠素子は摩擦によつて噛合う旨主張するが、前記のごとき本願考案の互錠素子においては、摩擦により噛合閉鎖を確実にし、みだりに開離しないようにすることができるとは考えられないことであり、そのような事実を認めうる証拠もない。被告が指摘する甲第一一号証の一の第2図、第一三号証の第1図、第2図における互錠素子は、脚部分と頭部分とが共通面内ではなくて捩れた面内にあることによつて摩擦係合するものと認められるから、これを本願考案の互錠素子と同等とみることはできない。

これに対し、第二引用例の第6図、第7図、第10図における左側の互錠素子は、その頭部分が前記本願考案の互錠素子の頭部分が有するような形状を有していないことが成立に争いのない甲第一一号証の一の右各図面によつて明らかであるから、本願考案と第二引用例のものとの一致点に関する審決の認定は、この点において当を得ないというべきである。

しかしながら、スライドフアスナにおいて、左右の互錠素子の噛合係合を確実にするため、互錠素子の頭部分に平坦部又は膨出部等を形成することは、本願考案の登録出願前においても、周知の技術的事項であつたというべきものであるし(例えば、成立に争いのない甲第一三号証の第7図、第8図、第11図、第12図、第13図、同乙第一号証第8図)、本願考案がこの点において特段の作用効果を奏するものとも認められないので、右審決の判断の誤りはその結論に影響を及ぼすものとすべき限りではない。

(ロ) 原告は、甲第一三号証の第12図、第13図の「へり部分」は本願考案の「頭部分」とは似て全く非なるものであると主張するが、その「へり部分」(頭部分の横方向突起)がそれによつて噛合係合を確保するものであることは図面の記載から明らかであつて、単なる補助的役割をするにすぎないものとは認められないから、原告の右主張は採用できない。

(ハ) さらに、原告は、本願考案においては、「連結部分、脚部分、頭部分」が明確に区別しうる形状であるのに対し、第二引用例のものは、これら三者、特に「連結部分」と「脚部分」の区別が明瞭ではないから、両者はこの点においても同一ではない、と主張する。

この主張のうち、「脚部分」と「頭部分」の区別については、本願考案における「頭部分」は前記(イ)において判断したとおりの形状であるところ、これが「脚部分」と明確に区別しうると主張するものであると解されるが、この主張は肯認しうるとしても、この点についての審決の判断のいかんは、既述のとおり、結局、審決の結論に影響を及ぼす限りでないものである。

次に、右主張のうち、「脚部分」と「連結部分」との区別については、本願考案においては、「脚部分」は「頭部分」と共に、素子の長手方向を横切る共通面内にあり、「連結部分」は、この共通面内になくてそれに対して傾斜しているので、「脚部分」と「連結部分」とは明確に区別しうるのに対し、第二引用例のものにおいては、いわゆるコイル状であつて、「連結部分」のみならず「脚部分」も前記のごとき共通面内にないから、その区別が明瞭でない、という趣旨の主張と解される。この主張については、後の(2)(イ)の項において、合せて判断する。

(2)  原告は、審決が、本願考案と第二引用例のものとが、「素子の脚部分と頭部分とは、素子の長手方向を横切る共通面内に延び」「連結部分は、前記共通面と素子列の長手方向とに傾斜し」「脚部分は、前記共通面内における頭部分を横切る線に関して対称的」に構成されている点において同一であると判断したのは誤りであると主張する。

(イ)  原告の右主張の根拠の一は、第二引用例のものにおいては、その素子は、脚部分と頭部分とは素子の長手方向を横切る共通面に延びていないというにある。

前掲甲第一一号証の一によれば、第二引用例の明細書には、「右側バネ18aと左側バネ17aについて、さらに詳細に述べれば、特に第7図においてみられるように、各単回は織物の表側にある部分と裏側にある部分を含み、これらの部分は共通面にあり、この共通面は、それぞれのバネの軸線に対して直角であり、また織物のへりに対して直交している。」(第三頁左欄第五七行~第六五行)、「かくして、バネ17aの場合、一個の単回15aをとつて考えれば、その作動部分は、大きな、比較的開いた内側末端23aであり、この部分は一対のアーム50によつて支承されるループ又は折返し部分の形をなしている。前記の一対のアーム50は、織物のへりと交差し、一方のアームは表側にあり、他方のアームは裏側にある。また、前記の各アーム50は、それぞれ単回の外側連接部24aと連接している。このようにして、第7図において露出して見えるアーム50は、左側において連接部24aに連接し、この連接部24aは上方に向つて、すぐ上の単回と連接している。第7図に見られる表側アーム50によつて隠されたアーム50は、織物の裏側に位置し、単回の外側連接部24aと連接し、この連接部24aは下に向つて、それぞれすぐ下の単回に連接している。右側バネ18aとその各単回16aの場合には、アーム50aは、折り返し部23aを支承し、この折り返し部は単回の作動振り出し部として役立ち、また、前記アーム50aはそれぞれ外側連接部24bと連接し、このようにして、一方のアームはすぐ上の単回と、他方のアームはすぐ下の単回とそれぞれ連接している。」(第三頁右欄第七一行~第一〇二行)、「特記すべき点は、一つの単回から次の単回への立面の変化というべきものが実際上、外側連接部24aと24bに限られるように、各バネ17aと18aの各単回がすえ込みされることである。このことから、それぞれの場合における噛み合いアーム50と50aは、前述のように実質的に共通面上にあり、また、各共通面は、バネの軸線に対して直角であり、放射面である。」(第三頁右欄第一〇七行~第一一八行)との記載があることが認められ、これらの記載とその第6図、第7図、第10図を併せみれば、これら図面の左側のバネにおいて、内側末端23aは頭部分に、織物の表側及び裏側にある一対のアーム50は脚部分に、これらアームに連接する外側連接部24aは連結部分に、各単回は各互錠素子に相当するものであつて、それぞれ置きかえた表現を用いるならば、左側の各互錠素子は、その互錠素子に隣接する他の互錠素子と共通の第一連結部分、第一脚部分、頭部分、第二脚部分、隣接する他の互錠素子と共通の第二連結部分をこの順に構成し、各互錠素子の脚部分と頭部分とは、素子の長手方向を横切る共通面内(この場合には、具体的には長手方向に対して垂直な共通面内)に延びており、そして、連結部分はこの共通面と素子列の長手方向とに対して傾斜しているという構成を有することが明らかであつて、原告の主張は失当である。

もつとも、その頭部分は、平担部あるいは膨出部を具えているか否かという点では、その形状まで本願考案における互錠素子の頭部分と同一であるとはいえない(第二引用例のものの前記の左側の素子の頭部分には平担部あるいは膨出部がない。)が、この点は、既述のとおり、審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。

(ロ)  原告の右主張の根拠の二は、第二引用例のものにおいては、その素子は、「脚部分は、前記共通面における頭部分を横切る線に関して対称的」になつていないというのである。

しかしながら、前述のとおり、第二引用例の第6図、第7図、第10図の左側の素子においては、第一脚部分と第二脚部分とは共通面内にあると認められ、また、前掲甲第一一号証の一によれば、第二引用例には、「この単回の形状は大体において玉子形であつて」(第三頁左欄第二一行~第二二行)と記載されていることが認められ、この記載と第10図の記載によれば、第一脚部分と第二脚部分は、前記共通面内における頭部分を横切る線に関して対称的になつていることが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

3  その3の主張について

原告は、本願考案は、同一の素子列を単に左右に配置すればそれでフアスナとしての噛合、作用効果を生ずる旨主張する。

しかしながら、頭部分及び脚部分の存する共通面が素子の長手方向に対して垂直であることを要件としない本願考案において、右のことが常に必ずしも可能であるとは考えられない。前記共通面が長手方向に対して垂直である場合には、そのようなことが可能であるとは考えられるけれども、右共通面が長手方向に対して傾斜している場合には、単に同一の素子列を左右に配置したのでは、素子の脚部分が衝突して噛合に支障をきたすことがあると考えられ、このような場合には、噛合が得られるよう左右の素子列を別個に作る必要があることが明らかである。原告の主張は、結局、本願考案の特定の実施例の場合のみに関するものであつて、採用できない。

以上のとおりであり、審決を違法とする原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の要旨

長手方向に連らなる複数の連続した互錠素子で構成され、これら互錠素子は可撓弾力性の断面円形状の材料で作られたスライドフアスナにおいて、前記スライドフアスナの長手方向に連接する各互錠素子は、この互錠素子に隣接する他の互錠素子と共通の第一連結部分4、第一脚部分2、頭部分7、第二脚部分2、隣接する他の互錠素子と共通の第二連結部分4をこの順に構成し、前記各互錠素子の脚部分2と頭部分7とは前記素子の長手方向を横切る共通面内に延び、前記連結部分4は前記共通面と前記素子列の長手方向とに対して傾斜し、各互錠素子の前記脚部分2は前記共通面内における前記頭部分7を横切る線に関して対称的であり、さらに、前記素子はそれぞれ複数の縫目12により支持用テープ10に固定されることを特徴とするスライドフアスナ用互錠素子。(別紙第一図面及び第三図面(2)(〔編註〕省略)参照)

審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

2  本願考案の登録出願前の公知資料(昭和二七年六月二〇日特許庁陳列館受入)たる米国特許第二五八六八九一号明細書(以下「第一引用例」という。甲第一二号証)には、「互錠素子がそれぞれ複数の縫目により支持用テープに固定されたコイルフアスナ」が、また、同様の公知資料(昭和五年二月五日特許局陳列館受入)たる米国特許第一七二四三一一号明細書(以下「第二引用例」という。甲第一一号証の一)の第6図、第7図(別紙第二図面参照・そのうちの第10図を拡大したものを第四図面(〔編註〕省略)に示す。)には、「長手方向に連らなる二本の連続したスプリング状の互錠素子よりなるコイルフアスナにおいて、一方のスプリング状互錠素子を、長手方向に連接する各互錠素子が隣接する互錠素子と共通の第一連結部分、第一脚部分、頭部分、第二脚部分、第二連結部分の順に構成され、その脚部分と頭部分とは素子の長手方向を横切る共通面内に延び、連結部分は前記共通面と素子列の長手方向とに対して傾斜し、脚部分は前記共通面内における頭部分を横切る線に関して対称的に構成したもの」がそれぞれ記載されている。

3  本願考案と第二引用例のものとは、次の点で一致している。

(1)  「長手方向に連らなる複数の連続した互錠素子で構成され」ている。

(2)  「これら互錠素子は、可撓弾力性の断面円形状の材料で作られたスライドフアスナで」ある。

(3)  「スライドフアスナの長手方向に連接する各互錠素子が、この互錠素子に隣接する他の互錠素子と共通の第一連結部分、第一脚部分、頭部分、第二脚部分、隣接する他の互錠素子と共通の第二連結部分をこの順に構成され」ている。

(4)  「互錠素子の脚部分と頭部分とは、前記素子の長手方向を横切る共通面内に延び」ている。

(5)  「前記連結部分は、前記共通面と前記素子列の長手方向とに対して傾斜し」ている。

(6)  「互錠素子の前記脚部分は、前記共通面内における前記頭部分を横切る線に関して対称的な構成を有し」ている。

4  本願考案と第二引用例のものとは、次の二点で相違する。

(1)  長手方向に連続する左右の互錠素子が、本願考案では同じ構成であるのに対し、第二引用例のものでは異る構成である。

(2)  互錠素子を支持用テープに固定する方法について、本願考案は、複数の縫目により固定しているのに対し、第二引用例のものは、互錠素子がテープを貫着している。

5  右(2)の相違点については、本願考案は、第一引用例のものと一致している。

6  右(1)の相違点については、

(1)  「第二引用例のもののスプリングの噛み合い頭部は左右別異な形状である」との原告の主張については、「噛み合い頭部」の形状については本願考案の登録請求の範囲において何ら限定されていないので、これを採用できない。

(2)  本願考案が長手方向に連続した互錠素子を左右同じ構成としたための格別の効果は認められない。

(3)  一般に、左右の連続した互錠素子を同じ構成としたスライドフアスナは、英国特許第三三八三三一号明細書(甲第一三号証)にみられるごとく、普通のものであるから、第二引用例に記載された一方の連続した互錠素子と同じ構成のものを他方の連続した互錠素子として用いることは、当業者において容易に考えられることである。

7  したがつて、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された事項並びに周知事項から容易に推考しうるものであるから、旧実用新案法第一条に規定の実用新案と認めることはできない。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

<省略>

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